万夜一夜　part14

【ユッグ＝ゴトフからの手紙】

親愛なる皆様へ

　第三者に読まれないためにこの手紙をミ=ゴの言葉で書いたことをお許しください。 読めると信じています。
　この手紙を書いたのはロズウェル事件から４年経った１９５１年です。 カロンで時空を跳んだあと、私は過去の私に治療を施しました。 その結果、ヌガー=クトゥンがジェシー・マーセル氏を殺すことが無くなり、米軍がヌガー=クトゥンを退治することも無くなりました。 過去の私とヌガー=クトゥンは今もどこかで生きているはずです。 会う機会があるかは別として、何事も無ければきっと皆さんの時代でも生きているでしょう。 ただし、過去の私は皆さんと面識がありませんし、ミ=ゴ本来の姿をしているはずなので、皆さんが気付くことも無いと思います。

　残りの紙面はその後の私の人生（と言っても、たった４年です）について述べることにします。 目的は果たしたので、正直いつ消えてもよい命でした。 齢１００を越えようとしているこの身体で、何もすべきことの無いこの身が何をすべきか考えました。 残る命は皆さんのために使おう、と思いつくのに時間はかかりませんでした。
　長くなるので詳細は割愛しますが、私はジェシー・マーセル氏と交流を持つようになりました。 この手紙を皆さんに届けていただけるとのことです。 ジェシー氏に深く感謝すると共に、大変嬉しく思います。
　お役に立つかわかりませんが、４年間かけて作成した、皆さんに必要と思われる資料を手紙に同封しました。 出来ることなら直接皆さんの手助けをしたかったのですが不可能なようです。 実はこの手紙は病院のベッドの上で書いています。 さすがにもう寿命のようです。

皆さんの大切な人を救えるように願っております。

ユッグ=ゴトフより

【同封資料】

　同封されている資料はカロンに関するものではなく、アニミークリそのものに関する調査・研究が主な内容だった。 そのほとんどはあなた達には生かしようの無い内容だったが、そのうち２つ、有益な情報を見つけることができた。 １つは巨大アニミークリのおおよその居場所である。もう１つは冷気に弱いといえども冷やすだけでは撃退するのは困難だろうという内容だった。

ユッグ＝ゴトフの資料に書いてあった巨大アニミークリのおおよその居場所へ向かうと、山肌の側面が裂けていて、氷で覆われている場所を見つけることができた。 どうやら氷の洞窟のようになっており、奥へ進めるようだ。

裂け目を進んで行くと、探索者たちは徐々に強烈な嫌悪感を抱き始める。 あなた達はこの嫌悪感に覚えがあるはずだ。 アニミークラムと同質の、邪悪な、おぞましい、冷たいオーラを感じる。 この先に巨大アニミークリがいることはもう疑いようもない。

更に奥に進んで行くと、開けた空間があった。 その中心には象より一回り大きいくらいの、巨大なアニミークリが鎮座している。*6

【エピローグ】

巨大アニミークリは崩れて細かな鉱石になりました。 これが集まって大きくならないように処置する方法を50年間カロンの研究をしてきたあなた達は知っているでしょう。 雪山の各地に眠る細かな欠片全てをどうにかすることは出来ませんが、それらが大きくなるのは数十億年先のことです。 そもそも太陽が膨張し、地球上の生命が死に絶えるのが17億年後と言われているので、事実上、この山のアニミークリは完全に沈黙しました。 それは確かです。

疲労困憊のあなた達は氷の洞窟から外へ出ました。空は快晴です。 １０年後、ここから空を見上げれば飛行機が飛んでいくことでしょう。 それにはあなた達の大切な人、そして過去のあなた達が乗っているはずです。 雪山の上空を飛行機は何事も無く飛んでいきます。 平和に、青空を飛んでいきます。

【エンディング：別離】

もう今まで通りの日常に戻ることはできません。 しかし、大切な人の幸せを願うのならば、最善の選択でしょう。 数万の夜を越えたあなたと、たった一夜を過ごしただけの大切な人はあまりにも時間のスケールが違い過ぎます。

きっと、必ず、過去の自分が大切な人を幸せにしてくれる。 今のあなたは、どこか知らない場所で生きていくことになるでしょう。