万夜一夜　part11

【管理人室】

鍵を使って探索者は管理人室に侵入した。 以前本人から聞いていた通り、基本的に客室と変わらないようだ。 ベッドが1つしか無い代わりに大きな本棚がある。 しかし、一番探索者の目を引いたのは、床に安静に寝かされた、生きているのが不思議なくらい大けがをしている、眠っている探索者たち。 そして、その隣で座って眠っているジェシーである。

【瀕死の探索者】

五芒星を描いた紙をアニミークリに貼りつけたものを、探索者それぞれが握りしめている。 起きる様子はまったく無いようだ。 周りには治療に使ったのか、家庭にあるような救急箱や、裁縫道具、メス替わりに使ったと思われる刃物などが清潔に置かれている。

神業としか思えない、人知を超越したと思えるほどの手術の腕、医学知識により何とか息があるのだとわかる。 きちんとした機材を使っても、これは人間技ではない、ましてやこのような粗末な道具では……。

〇呪文【夢に侵入する】

・使い方
　MPを1消費して対象の夢へ侵入する。肉体ごと侵入するのではなく精神のみが侵入する。
　侵入するには旧き印が描かれたものを対象に張り付けて呪文を唱える。この呪文は自分以外を夢の中へ侵入させることもできる。
　対象が目覚めた場合、強制的に追い出される。
　侵入した際に、侵入者の夢が対象の夢に混ざりこむことがある。 対象の夢の中に元々あったものは夢の持ち主と侵入者全員が知覚できるが、混ざった侵入者の夢は侵入者本人にしか知覚できない。

・活用法
　夢を荒らしたところで相手の目覚めが悪くなるだけであり、基本的に役に立たない呪文である。
　諜報活動に使えないことも無いが、得たい情報に関する夢を対象が見ているとは限らないため、必ずしもうまくいくとは限らない。侵入する夢を寝言などから吟味する必要がある。

〇1978年
　UFO研究科のスタントン・フリードマン氏からインタビューを受けた。 どうやら私が残骸回収に関わったと聞きつけたらしい。多額の謝礼金の用意があるといっている。 あまり当時のことは話したくないが、研究のためには金が必要だ。もう私も60歳ほどになった。先は長くない。 あの山に小屋を建てよう。施設も人員も違えど、３３年前からその予定だったのだ。

〇1995年
　資産が尽きた。正確にはまだもう少しあるが、このままでは間違いなく尽きる。 対策として観光客向けのコテージに改装することにした。
　研究は今まで現実でやってきたが、ウボ=サスラの夢の中で行う。 アニミークリはウボ=サスラの欠片だが、本体から離れていても魔力的な繋がりがあることがわかっている。 呪文<<夢に侵入する>>を用いればアニミークリを通じてウボ=サスラの夢に侵入できるだろう。 ウボ=サスラは白痴だ。目覚めることは無いから、強制的に追い出されることもない。 知性が無いから余計なものが混じらず、吹雪が止まないことを除けばアニミークリの周辺にある景色をそのまま夢見ている。 夢の中でだけコテージを改装、採掘を行えば外部にバレることも無く、時間も作業スペースも確保できるはずだ。

〇2013年
　カロンの作成の気分転換に洞窟を掘り進めていたが、いつの間にか基地のようになっていた。 これほど似せて作ってしまったのは、無意識のうちに故郷が恋しくなったからだろうか？ 　ここに私しかいないこと、使ってない部屋は空っぽであることを除けば当初の計画と同じくらいの設備と空間を確保したことになる。 吹雪さえなければ、少なくともN'gha=Kthunは私の傍にいたはずだったのに。 幻影は傍にいるけれど、無性に寂しい。彼女は本物ではない。 もうあとどのくらい生きられるかわからない。不安になって来ている。 気分転換に仮眠を取った。夢の中では寝る必要は無いが、体感では100年は寝ていなかったと思う。

〇昨日
　吹雪だった。私が墜落したときと同じくらい強い吹雪だ。 恐らく日本から飛んできた飛行機が墜落してきた。 当時のことを思い出した私は無我夢中で救助活動を行った。無理をしたことで私の寿命は縮まっただろう。 だが、彼らに協力してもらえればカロンの製作は大幅に進むはずだ。それはそれとして、助けられたことは純粋にうれしかった。 彼らが私の正体を知ったらどう思うだろうか。